狭衣物語(さごろもものがたり)
― 解説 ―
作者 ・・・ 六条斎院宣旨(賀茂斎院である後朱雀天皇皇女禖子(ばいし)内親
王に仕えた女房。源頼国の娘)
成立年・・・ 内親王が斎院を降りた1058年から、宣旨が没した1092年まで。
特に1060〜1070年あたりが有力。
<あらすじ>
帝の弟である堀川関白の一人息子・狭衣と五人の女君たちが織りなす、宿世と
憂愁に満ちた恋愛物語。
狭衣は、兄妹のように育てられた従妹の源氏の宮を人知れず恋しているが、拒
絶され続ける。その傷心を、偶然出逢った飛鳥井の女君に慰められるが、身分低
い女君に素性すら明かさない。狭衣を信頼しきれない女君は、身重の体で自分
の乳母にだまされ筑紫へさらわれそうになり、船上で入水を決意する。
帝の鍾愛の皇女・女二の宮と婚約した狭衣であったが、気が進まず拒否し続け
ながらも、あろうことか強引に契りを交わし、宮は懐妊してしまう。狭衣の誠意を
疑う宮と、後悔と未練にさいなまれる狭衣。一方、ご神託により、源氏の宮は賀
茂の斎院へ。
厭世の思いで参詣した粉河寺で、狭衣は飛鳥井の女君の身内である僧に偶然
出会う。
女君の忘れ形見の女児会いたさに、女児が引き取られた皇女一品宮の邸に忍
び込んだところを目撃され、心ならずも一品宮と結婚しなければならなくなる。
夫婦仲は、終生冷めきったものであった。
運命のつれなさに出家を決意した狭衣だったが、賀茂明神のお告げにより、父関
白が出家を阻止する。
現世を生きるしかない狭衣は、源氏の宮にうりふたつの式部卿の宮の姫君に慰
めを見出す。
天照大神のお告げで狭衣は即位。だが、帝位の栄光とは裏腹に、狭衣の憂愁は
尽きないのであった。
『狭衣物語』は、源氏物語の摸倣・再現が目的で作られています。
独創性のある新奇の物語より、『源氏』の読後感を味わわせてくれる作品を、当
時の読者層が要求していたからに他なりません。
しかし、主人公である狭衣は、光源氏のように次から次へ快活に姫君のあいだを
渡り歩く、恋の狩人的な性格を与えられているわけではなく、躊躇と不決断に満
ち、はつらつさもなく、不本意の場合に拒否するという意志もない、そんな人物設
定がされています。現代では人格破綻者と言われそうですが、これが当時の京
の貴族社会の典型的人物像。身分階級がギッチギチに決まってて動かしようの
ない現実に、抵抗することを忘れてしまった公達たちの姿だったのです。
亜流『源氏』筆頭のこの物語、拙い訳ではありますが、どうぞお楽しみ下さい。
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